東京高等裁判所 昭和36年(う)1747号 判決 1961年12月23日
被告人 古川広淳
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年六月に処する。
原審並に当審訴訟費用は被告人に負担させない。
理由
弁護人の控訴趣意第二点法令の適用の誤りの主張について
所論によると、本件業務上横領の各所為は、日時の接着、被害者の単一目的の同一、並に会社のために集金保管中の金員を横領するという同一生活環境の下に行われたものであり、就中、同一集金先から集金した分については、寄託関係の同一という点から、包括一罪として評価すべきであるのを、原判決が併合罪を以て処断したのは法令の適用を誤つた違法があると主張する。よつて審按するに、犯罪の単複を決定するに当つては、犯行時の接着、被害法益の単一、犯行態様の同一性等は固より考慮を要する要素ではあるけれども、右の外犯罪意思が単一であるか否かの点についても、これを考慮すべきものであるところ本件についてこれをみるに、本件業務上横領は、電気器具の外交販売員である被告人が、昭和三五年一一月七日頃から、同三六年二月二〇日頃までの間、約三ヶ月半の間に、前後八回(原判決の認定した事実は九回であるが、当審では後記のとおり八回と認める)に、集金を着服横領した事実であるから、その犯行の日時は必ずしも接着しているとは認められない。また、原判決挙示の証拠によると、被告人は随時自己の必要に応じ新たな犯意に基き、その都度集金を着服したものであつて、本件記録を精査するも、被告人において、当初から自己の集金した金員を着服しようとする包括的犯意(このことは同一集金先から集金した分についても同じ)があつたものとは認められない。それ故たとえ被害法益が単一であり、犯行の態様が類似していたとしても、各個の着服行為ごとに一罪が成立し、これらの罪は併合罪となるものと解するから、所論の如く論旨は理由がない。本件の総べての横領行為若しくは同一集金先から集金した分に関する横領行為を悉く一罪と解することはできない。しかしながら、原判示二及び三の(1)の各事実は、いずれも昭和三五年一二月五日頃二ヶ所の集金先から集金した金員を、いずれも同日、自己居室に持ち帰えり着服横領したというのであるから特段の事情の認められない限り、両者の金員を一括して同時に着服したものと認められるので、右は一個の行為であつて一罪を構成するものと解すべきである。果して然からば、右の場合をも各独立した二ヶの併合罪とし、刑法第四五条前段第四七条本文を適用した原判決はこの点において法律の適用を誤つた違法があり、右は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は全部破棄を免かれない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判官 山本謹吾 目黒太郎 深谷真也)